遺言書に遺産分割協議の制限があった場合の手続きを進める方法
相続における遺産分与は、法定相続分の規定がありますが、遺言書の記載事項が最優先されます。
ただし、相続人が話し合いで合意すれば、別の分配方法も選ぶこともできます。
遺産の配分に際しては、遺言書での指示や相続人による話し合い、さらには家庭裁判所の判断によって、遺産の分け方に制限を加えることが可能です。
本記事では、遺産の分割を制限する場合の決まりごとや、制限付きの遺産分割についての対処方法を解説します。
遺産分割の大原則として遺言書が優先される
法律で定められた相続の仕組みにおいて、遺言書は法定相続分を上回る効力を持っています。
財産の分け方を決める際には、遺言書の内容が最も尊重される仕組みとなっているのです。
遺言書は被相続人の財産分与に関する希望を明記した大切な書類となります。
財産の分け方について、被相続人の最期の意思が詳しく記されているのが特徴です。
必要な条件を満たした遺言書が残されている場合、相続人同士での協議は不要となり、遺言書の内容に沿った分配を進めることができます。
相続の対象となる財産は、被相続人が生涯をかけて築き上げた貴重な資産です。
人生の最期に示された意思を大切にするという意味でも、遺言書を優先することには十分な理由があります。
遺言書と異なる遺産分割も可能
先に説明したとおり、遺産分与の方法は被相続人の意向を大切にするため、遺言書の内容が法定相続分より重視されます。
しかし、以下の全ての条件を満たせば、別の分配方法を取り入れることが可能です。
- 遺産を受け取る権利がある相続人全員が新しい分け方に賛成する
- 遺言書の中に分割方法の制限事項が書かれていない
- 遺言の実行を任されたひとがいる場合は、そのひとの了承を得る
遺産分割の禁止について
財産分与の制限期間を設けることで、相続に関する協議を一時的に見合わせることができます。
相続が始まってすぐの段階で財産を分ける話し合いを行うのが望ましくない場合、期限付きの制限を活用することでトラブルを防止することが可能です。
財産分与の制限が有効な期間中は、基本的に遺産を分配する協議は成立しません。
ただし、相続人が全員同意した際は、特別に分割が容認される可能性があります。
このルールを利用することで、重要な判断が求められる相続の手続きを、最適な時期に実施することが可能です。
財産分与を禁止する3つの方法
財産分与の手続きを禁止するには、次の3つの方法があります。
- 遺言書による財産分与の禁止
- 相続人全員の同意に基づく財産分与の禁止
- 家庭裁判所が定める財産分与の禁止
以下では、各禁止方法の具体的な内容を見ていきましょう。
遺言書による財産分与の禁止
民法の規定により、遺言書を使って財産分与を一時的に制限することができます。
財産分与の制限期間は、相続が始まってから最大で5年間です。
制限期間を5年以上に設定した場合は効力を持ちませんが、期限内であれば5年の範囲内で延長することが認められています。
相続人全員の同意に基づく財産分与の禁止
相続手続きが終わっていない財産は、法律で定められた共有財産に関する規定が適用されます。
相続人が全員で合意した場合、5年を上限として財産分与の禁止を設けることが可能です。
財産分与の禁止期間は、期限が来た時点で最長5年まで延ばすことが可能です。
なお、禁止期間中でも相続人全員が同意すれば、禁止の取り決めを更新したとされるため、全員が同意すれば、財産を分ける手続きを開始できます。
家庭裁判所が定める財産分与の禁止
財産分与の話し合いがまとまらない場合や、相続人の間での協議が難しい状況では、家庭裁判所への申立てが可能です。
家庭裁判所は相続に関する詳細な状況を調査し、すぐに財産を分けることが望ましくないと判断した場合、一時的な分与制限を設定する権限を持っています。
このような仕組みによって、十分な検討が求められる相続の手続きを、最も適した時期に実施できるような環境が整っているのです。
遺言書によって財産分割が禁止されている場合の相続手続きの進め方
遺言書によって遺産分割が禁止されている場合の対処方法について解説します。
以下で具体的に見ていきましょう。
遺産分割の禁止期間が終了するまで待つ
遺言書による遺産分割の禁止は、相続開始から5年間という期限が法律で定められています。
遺産分割の禁止期間中は、たとえ相続人が全員で合意したとしても、分け方について協議を行うことはできません。
遺言書の中に「相続人が成人年齢に達するまで」などの独自の条件が記載されている場合は、その条件が満たされるまで待つ必要があります。
被相続人が事前に設定した条件が整うまでは、相続人の意向だけで財産を分配することは許可されていません。
財産分与の禁止期間が過ぎた後は、相続人が集まって分割協議を始めることが可能です。
共同相続人全員の合意があれば遺産分割できる可能性がある
やむを得ない状況があれば、財産分与の禁止期間を取り消せる場合があります。
共同相続人全員が理解し、納得のいく話し合いを重ねた上で、全員一致の同意が得られた場合が該当します。
このような条件が整えば、禁止期間中でも財産を分ける手続きを始めることが可能です。
しかし、遺言書の実行を任されている遺言執行者が指定されている場合は、様子が異なります。
遺言執行者が選ばれている状況下では、相続人全員が賛成しても禁止期間内の財産分与に関する協議は成立せず、無効です。
まとめ
財産分与の優先順位は、法定相続分よりも遺言書の記載内容が優先されます。
ただし、相続人が十分な協議を行い、全員が同意すれば、遺言書の内容とは異なる分配方法を採用することが可能です。
財産分与を制限する方法は、遺言書による方法、相続人全員の合意による方法、家庭裁判所による方法の3種類です。
これらの制限方法には、いずれも最長5年という期限が設定されています。
財産分与が制限されている場合、原則として制限期間の終了を待つ必要がありますが、相続人にやむを得ない事情がある場合は、特別に認められることもあります。
財産の分け方や制限に関して不安がある場合は、相続問題に詳しい弁護士に相談することがおすすめです。
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弁護士紹介
昭和25年12月5日生まれ。慶應大学法学部を卒業。第二東京弁護士会に所属。弁護士として、30年以上のキャリアを持つベテランの弁護士です。
市民生活の法律問題全般や企業法務を幅広く扱っています。
また、社会問題への参画として日弁連裁判員本部委員を努めるなど、裁判員制度の推進・改善を目指す活動にも貢献。市民の皆様が裁判員として効率的に仕事ができるよう、有志で裁判員経験者との交流団体である裁判員経験者ネットワークを設立し、共同代表世話人として2ヶ月に一度、交流会を開催するなど、積極的な活動を続けています。
裁判員経験者ネットワーク https://saibanin-keiken.net/
弁護士 牧野 茂
- 所属団体
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- 第二東京弁護士会裁判員センター
- 日弁連刑事弁護センター幹事
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- 裁判員裁判のいま(成文堂)
- 取調べの録画ビデオ~その撮り方と証拠化~(成文堂)
- 「民事陪審は実現できる」(二弁フロンティア2020年1月2月論考)
- 裁判員制度の10年(日本評論社)
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